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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)3063号 判決

控訴人(原告)

赤崎秀和

被控訴人(被告)

住友海上火災保険株式会社

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し金二、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

4  この判決の2、3項は仮に執行することができる。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示「第二 当事者の主張」欄記載のとおりである(ただし、原判決四枚目裏六、七行目の「被保険車」を「被保険者」と訂正する。)から、これを引用する。

一  控訴人の当審における陳述

1  道路交通法四七条二項は、「車両は、駐車するときは、道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。」と規定している。仮に増渕車が停車していたのだとしても、同条一項は、「……停車するときは、できる限り道路の左側端に沿い、かつ、他の交通の妨害とならないようにしなければならない。」と規定している。

2  本件では、増渕車が道路の左側端に沿つて駐停車していたとの主張も立証もない。前記道路交通法の規定の趣旨は、駐停車を問わず、事故発生防止のため細心の注意を払うべきであり、その内容の一つとして、他の交通の妨害となつてはならないというのである。

増渕は右規定に反し、増渕車を運行して恒成車の交通を防害し、本件事故を発生させた。

3  しかも、増渕が増渕車を駐停車させた場所は駐車禁止に指定されている地域である。

二  被控訴人の当審における陳述

控訴人の当審における陳述は否認もしくは争う。増渕車は車道側端から数一〇センチメートルの間隔で停止していたのであり、かつ、車道の側端に沿つて停車していたものである。また増渕車の停車と本件事故の発生との間に因果関係が存在しない。

第三証拠関係

原審及び当審訴訟記録中の証拠目録の各記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加・削除・訂正するほか、原判決の理由説示(原判決一一枚目表二行目冒頭から二〇枚目裏三行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1(一)  原判決一一枚目表四行目の「右島車が左に寄つて恒成車の」を「右島が右島車を道路中央付近から左側に寄せ恒成車の」と改める。

(二)  同一三枚目裏一〇行目の「もので、増渕車の」から同一一行目の「であつた」までを削除する。

(三)  同一六枚目表八行目の「前掲証拠」の次に「及び当審証人恒成博久の証言」を加える。

(四)  同一八枚目表二行目の次に、行を改めて、次の説示を加える。

「なお、控訴人は、増渕車が道路の左側端に沿つて駐停車していたとの主張も立証もないと主張するが、、被控訴人は前示のとおり増渕車は渡辺車の前方道路左端に停車していたと主張しており(引用にかかる原判決六枚目裏八、九行目参照)、増渕車の停止がいわゆる停車とみるべきことは右に説示したところであるから、控訴人の右主張は理由がない。」

(五)  同一八枚目裏五、六行目の「できる(右推認を左右すべき証拠はない。)。」を「できる。右推認に反する当審証人恒成博久の証言はにわかに措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。」と改める。

2  原判決一九枚目裏一〇行目の次に、行を改めて、次の説示を加え、同一一行目の(四)を(五)と改める。

「(四) 控訴人は、増渕車が停車していたとしても、その方法は道路交通法四七条一項に違反し、できる限り道路の左側端に沿つたものとはいえず、また右不適法な停車が本件事故の原因となつた旨主張するので、以下この点について判断する。

前掲甲第七、第八号証、乙第一号証の四、五及び八、乙第五号証の一、二、第八号証、原審証人増渕益子の証言ならびに前記2の認定事実を総合すると、増渕は普通乗用自動車である増渕車を車道左側端に沿つて駐停車している車両と車両の間に車道左側端に沿つて停車させたこと、その位置は渡辺車よりやや中央寄りであつたこと、一方警察の作成した本件事故現場見取図(甲第七号証の一部)の恒成車が増渕車に衝突した地点はほぼ正確に表示されており、それは車道側端から約一・八メートルの距離にあつたこと、一方恒成車の車体は増渕車の後部中央よりやや右側に衝突したことがそれぞれ認められる。以上の認定を覆すだけの証拠はない。そして、右認定事実に増渕車(普通乗用自動車)の車幅(一・六メートル前後)を考慮すると、増渕車の左側面から車道側端までの距離は八〇センチメートル前後であつたものと推認される。なお、右認定に反する前記乙第一〇号証の一ないし三の記載はたやすく措信できず、他にこれを左右するに足る証拠はない。

右の事実によると、増渕車は車道の左側端からかなりの距離を置いて停車していたことが明らかである。しかしながら、前認定のとおり、二人乗りしていた恒成車は渡辺車と接触したあと、左側に転倒もしくはその直前の状態で、その車体の二か所を路面と擦過させながらハンドル操作の自由を失い、しかも時速三〇キロメートルの制限を大幅に超える速度で、直進線より左斜め方向に向けて進行していたものである。したがつて増渕車について、前記のとおり前後に車両が駐車している間に停車したとはいえ、もつと左側に寄り、車道側端から数一〇センチメートルの間隔程度で停車すべきであつたとしても、結局恒成車の車体並びに同車に乗車していた恒成及び控訴人は増渕車の後部に激突し、同様の結果が発生していたであろうと推認される。

してみれば、増渕車の不適切な停車方法と本件事故の発生もしくは控訴人の受傷との間にも因果関係はないというほかない。」

二  よつて、控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣学 鈴木經夫 佐藤康)

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